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halphoto☆diary

プリンの断面

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「プリンあります」

 私がそのカフェに入ったきっかけは、ガラス扉にはられた
1枚のメモだった。そのメモを見た瞬間、写真を撮るのをやめて
足を休めたくなった。

扉は風におされて勢いよく閉まった。
カフェの雰囲気をぶち壊すほどのバタンという大きな音をたてて
私は中に入った。お店の女主人が迎えてくれた。

中には一人のおばさんが座っていた。
もうすぐおばあさんといってもいい年齢かもしれない。
その女性は私の首にぶらさがるカメラを見て
「重そうね」と声をかけた。
「くいこんでて重いです」と私は答えた。
私は奥にあるこげ茶色のソファに腰掛けた。

白い壁のお店。奥のカウンターからは音楽が会話をさまたげないボリュームで
わずかにきこえてくる。
窓から午後の夏のきもちいい風が通り抜けていた。
ガラス瓶につめられたビスコッティやおしゃれな陶器の置物がアクセントになっていた。

私はアイスティーを注文した。もちろんプリンも。
隣の女性はいつもコーヒーを頼むのだそうだ。
コーヒーがおいしいとのことで、その女性からはコーヒーをすすめられたが、
胃が痛くなることがあるので、アイスティーにしたのだ。
コーヒーとプリンを待つ間、女性はこのお店のことをいくつか教えてくれた。

ここのコーヒーが好きなの。とか、
あの瓶に入ってるビスコッティがおいしいの。とか、
プリン今日出てるって知ってたら朝ゆでたまごは食べなかったとか。
そういう会話が心地よかった。どうやらプリンはレアメニューらしかった。

ポットに入った紅茶と氷が入ったグラスとプリンがやってきた。
熱くなった紅茶が氷の入ったグラスに注がれた。
プリンは時計でいうなら15分の形に切られていた。
なめらかできれいな肌をしていた。むらがなくて、きれいな断面。
カラメルソースがきれいにまとっていた。これも透明でむらがない。

私はプリンにスプーンをいれた。
プリンの美しい断面に上からカラメルソースが流れてきた。
さらに、お皿の上に流れていたカラメルソースがそのプリンがあった場所に浸食してきた。

私は「見る」という行為が好きだ。

こういうことを見ていることも好きなのだ。

すくっては上から流れ、もとあったプリンの場所は白いお皿の部分が見えているのに
すくった瞬間、カラメルがやってくる。

こんなことを繰り返していた。

気が付いたらプリンがなくなった。
お皿はカラメルソースで一色になった。淵以外に白い部分はもうない。

風の音が気持ちよくて、音楽が邪魔をしない。
そんな空間だった。

隣の女性はコーヒーを飲み終わると、
私に一言かけて店を去って行った。
帰りがけに女主人にカウンターの横にあったレモンの酢づけについて質問をしていた。

私は店内にあったオブジェや陶器のお皿や置物をじっとみて
主人といくつか話をしてその店を去った。

きもちのいい日曜日だった。
by harunam28 | 2010-06-06 18:39 | ■人びとたち